システムで振り返るドイツ年間ゲーム大賞
システムって美しいですよね。(以下前置きです。)
ボードゲームのほとんど全ては、その数の大小や期間、割合の違いはあれど、人間によってより面白くなることを目指してデザインされたものであるということに異論はないかと思います。
このデザインという作業に当たって、特に近年では体系化され分類されたメカニクスによる各アウトプットを元に、それらを組み合わせて新しい「面白さ」を生み出すような手法が取られることが、デザイナーノートなどから伺える機会が増えてきました。このメカニクスの体系化はまさに進化中の分野であり、様々な分類法がある状況です。
本記事ではある程度大きな括りのメカニクスの集合体を「システム」と呼び、過去の名作の中でどんなシステムが輝いているのかを考察したいと思います。今回は、簡単に名作を探してこられて、しかも年代の移り変わりも見られる便利な「ドイツ年間ゲーム大賞」を題材にします。
(本題スタート)
では早速直近20年分のドイツ年間ゲーム大賞を列挙し、メインとなるシステムを併記してみましょう。なおシステムの記載に際しては、名著「ゲームメカニクス大全」を大いに参考にしております。
<凡例>
- 受賞年
ボドゲタイトル
主なシステム
- 2001年
タイル配置
- 2002年
ヴィラパレッティ
身体的アクション
- 2003年
タイル配置
- 2004年
チケットトゥライド
ネットワークビルド
- 2005年
ナイアガラ
アクションプロット
- 2006年
ネットワークビルド
- 2007年
ズーロレット
セットコレクション
- 2008年
レース
- 2009年
デッキビルド
- 2010年
ディクシット
ターゲットヒント
- 2011年
クワークル
タイル配置
- 2012年
キングダムビルダー
ネットワークビルド
- 2013年
花火
制限コミュニケーション
- 2014年
キャメルアップ
賭け
- 2015年
コルトエクスプレス
アクションプロット
- 2016年
コードネーム
制限コミュニケーション
- 2017年
キングドミノ
タイル配置
- 2018年
アズール
セットコレクション
- 2019年
ジャストワン
制限コミュニケーション
- 2020年
ピクチャーズ
制限コミュニケーション
まず以上はあくまで私の主観によって、根幹となるシステム一つだけを抜き出したリストになります。もちろんナイアガラにはセットコレクションの要素もありますし、キャメルアップにはレースの要素もあります。
まとめてみると計10種類のシステムが出てきました。その内最も多かったのは、
タイル配置(2001,2003,2011,2017年)と制限コミュニケーション(2013,2016,2019,2020)です。これらはある程度年代で分かれており、時代の流行を反映していて面白いです。
またタイル配置やネットワークビルドはセットコレクションの下位概念とも考えられ、「何らかのセットを集めて得点を獲得する」というシステムを根幹に置いたゲームが約半数を占めることになります。この理由としては、得点手段の把握が容易、プレイ時間の短縮が容易、全年齢に受け入れられやすい具体的なテーマとの親和性が良い、といったシステムの長所が考えられます。
しかしながら特にエキスパート賞が新設、定着して以降の近年では、より短時間でプレイが可能なコミュニケーションゲームの受賞が目立ちます。何らかの制限の元情報をやり取りが行われ、カオスが出来上がるという体験は非常に楽しいものです。またこの「制限」の度合いについても軽くなっている傾向にありますし、そもそも得点のルールはあるものの最早その獲得を主眼に置かないゲームの受賞も増えています。「得点による勝ち負け」という分かりやすい目標を捨てることは、ゲームを面白くするには非常に難しい要素となりますが、システムの体系化が進んできた現代において、数学的な得点獲得の移り変わりによるゲーム展開だけではなく、その場で生じる空気感による満足度をもデザインできる時代に変遷しているように感じました。
一方いわゆるゲーマーズゲームと呼ばれるようなゲームにおいて人気の高い、オークション、ワーカープレイスメント、拡大再生産、ドラフトといったシステムは、ここ20年の大賞にはほぼ登場しません。これらのシステムはいずれも抽象的なテーマとの親和性が高く、また得点の発生が連続的でありゲームとして成り立つ(=順位の差がつく)までに時間がかかるという特徴を持ち、大賞のターゲットからは外れていると考えられます。こちらはまた機会があれば別途まとめてみたく考えています。
最近では一回遊びきりのゲームや、謎解き、ストーリーテラー系のゲームも増えてきています。「このゲームの目的は最も多く得点を獲得することです。」という定番のフレーズも、過去の流行になりつつあるのかもしれません。