マルチジャンル・ホラーRPG インセイン(ネタバレなし)

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『マルチジャンル・ホラーRPG インセイン』

?人、?分(シナリオ次第)

魅力を三行で、

  • ホラー世界への没入感
  • 疑心暗鬼から生まれるドラマ
  • ステマチックで洗練されたルール

 

ホラーはボードゲーム界隈でも非常に人気のジャンルです。今回はその中でも、洗練されたルールの中でホラー世界への没入感を味わえるTRPG『インセイン』をご紹介します。

TRPGそのものについては過去の記事も参照して頂ければと思います。

「TRPG」って何?〜RPGの仲間です〜 - ボードゲームって素晴らしい

 

『インセイン』では各プレイヤーは「逢魔人」と呼ばれるキャラクターを作成し、演じることでホラーの世界で自分の目的を達成することを目指します。この「逢魔人」とはなぜか怪異に引き寄せられる運命の持ち主のことで、決して怪物や魔法使いや忍者などの特殊な者達ではありません。キャラクターが生身の人間であることで、現実の世界でも想像できるようなじわじわとした恐怖が味わえるのです。

『インセイン』の最大の特徴は「秘密」と呼ばれるシステムです。各プレイヤーは最初に今回演じるキャラクターが今回のシナリオでどんな目的を持って動くべきかが書かれた「ハンドアウト」と呼ばれる紙をGMから渡されます。これは全プレイヤーに公開され、「使命」と呼ばれます。一方でハンドアウトには裏面があり、この面はそのキャラを演じるプレイヤーだけが見ることができます。裏面にはそのキャラが持つ意外な一面や裏の顔が書かれています。また表の使命は嘘で、裏に「本当の使命」が書かれていることもあります。この裏面を「秘密」と呼びます。

例を挙げてみましょう。

「使命」(表面)=「あなたはコックだ。あなたの使命は料理を他のキャラクターに食べてもらうことだ。」

「秘密」(裏面)=「あなたは人肉の美味しさに憑りつかれている。あなたの本当の使命は他のキャラクターの肉をそれ以外のキャラクターに食べさせることだ。」

このようなハンドアウトが全員に配られるので、他のキャラの真の目的は何なのか、誰が敵で誰が味方なのか、疑心暗鬼しながら各自の使命達成に向かってシナリオを進めていくことになります。

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「使命」と「秘密」。シナリオによって様々なことが書かれている。

 

では次はどのようにキャラを行動させ、シナリオを進めていくかという話に移ります。各プレイヤーはシナリオを開始する前に、自分自身が演じるキャラクターの特徴を決めていきます。基本的には人間ですので、年齢や性別、職業、性格などを自分の好きなように決めていきます。そしてここにゲーム性をもたらすルールが、「特技」と呼ばれるものです。シナリオ中にキャラに何か行動をさせたいとき、『インセイン』では六面サイコロを二つ振ってその合計値の大小で行動が成功するか失敗するかを決めます。このとき、その行動についてどんな「特技」で判定するかを宣言します。

例を挙げます。

私は自分が演じるキャラに、他のキャラクターの「秘密」を探らせたいと考えています。ここで次のようにキャラクターを演じます。

「お前の命が惜しければ、秘密を吐くんだな!」

そしてこのロールプレイに近い「特技」として、「脅す」というものがあります。

私のキャラが「脅す」の特技を持っていた場合、二つのサイコロが合計5以上であれば成功、判定をされたキャラを演じるプレイヤーは自分の「秘密」を私に見せなければなりません。

 

使える「特技」は一覧表になっていて、最初に4つの特技を習得しておきます。判定時には判定に使おうとする特技と、自分が持っている特技の距離が一覧表の中で近いほど成功しやすくなります。
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 特技表。判定に使うというゲーム上の役割の他に、演じるキャラの人間性の肉付けができることでより明確な人物像を作り上げてくれる。

 

 そしてもう一つの世界観を盛り上げる要素が、「狂気」カードです。キャラクターはシナリオ中霊的な存在やヤバイ人間など様々な恐怖と対面します。シナリオ中に現れるこれらの存在も、基本的にはキャラクターと同様「使命」と「秘密」を持っており、それらの文面中に「恐怖判定」という文言が入っていた場合、プレイヤーは指定された特技で判定をしなければなりません。ここで判定に失敗すると、「狂気」を一枚獲得してしまいます。「狂気」は獲得しただけでは何も起こしませんが、「トリガー」と呼ばれる条件を満たしたときその「狂気」を表にして効果を発動しなければなりません。このトリガーと効果は様々で、無差別にダメージを与えたり、自分の行動が制限されたりします。ある「狂気」の発動によって他のキャラの「狂気」も発動するようなことも起こり、まさにホラーの世界での恐怖の連鎖が上手くゲーム上のルールとして落とし込まれています。

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 「狂気」の例。「顕在化」とは狂気が表になること。「PC」とはキャラのこと。

 

続いてもう少しだけ詳細に、シナリオ中に何ができるかを述べていきます。できることはいくつかあるのですが、メインとなるのは「調査判定」と呼ばれる行動です。この判定では、先ほどのように特技を指定し成功すると、他キャラの「秘密」や、周辺情報に関する「秘密」を知ることができます。このときどれだけ状況にあった自然なロールプレイをして、納得感のある特技での判定ができるかどうかが、このゲームの最も面白い点であり腕の見せ所です。つまりこのゲームでは勝敗や使命の達成はもちろん重要ですが、それよりも自分が世界観に溶け込み、みんなで楽しんでキャラ同士がいきいきと繋がり合うことを目指すとより魅力が味わえると思います。
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 シナリオ中にできること。詳細はルールブックを買うべし!

 

またこのゲームはRPGですから、当然「戦闘」も存在します。戦闘では最初に「プロット」と呼ばれる行動順を決めるルールがあります。プロットでは、戦闘中の全キャラが同時に1から6までの数字をサイコロで示し、大きい出目のキャラから行動します。ただし行動順が早いほど、自分が攻撃を受けたときに使える「回避判定」が難しくなります。この攻めるか逃げるかの読みあいも、このゲームの熱いポイントの一つです。

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プロット表

 

最後にこれまで述べてきた調査や戦闘をサポートするような要素について説明したいと思います。最初にキャラクターを作成する際、4つの特技の他に2つの「アビリティ」というものも習得します。この「アビリティ」には調査を助けるものから戦闘で攻撃の威力を上げるもの、範囲を広げるものなど様々なものが存在します。

このような「特技」「アビリティ」を例えばゲーム上で強そうだからという理由で最初に決めたとしても、それらの名前や内容からキャラクターの特徴が浮かび上がり自然とロールプレイがしやすくなります。また逆にこういうキャラがやりたいという方向からキャラを作ってゲーム中での強さを気にせず「特技」「アビリティ」を選んだとしても、致命的に不利になるような内容はありません。このようにこのゲームを全く知らずに好きにキャラを作った場合でも、洗練されたルールがゲームを楽しくしてくれるのが魅力です。
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アビリティの一部

 

 今回の記事では書ききれなかったような細かいルールもたくさんありますが、そのどれもがホラー世界への没入感を高められるように作られており非常に洗練されたTRPGだと思います。あなたもきっと「秘密」の虜になることでしょう。